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元旦を病院の当直室で迎えた朝、外にはうっすらと雪化粧した六甲山系の山々がきらきらと新鮮でした。 寒くなって窓の外に雪のちらつく頃、私には忘れられないひとつの光景があります。 それは学生時代、初めてアメリカで迎えた冬のことでした。 中西部のネブラスカ州では、冬はふだんの外の気温がマイナス10度以下になります。 でも学生寮の建物の中は強力な暖房が行き届いていて、冬でもTシャツと短パンですごせる暖かさがあります。 その頃のルームメートに、ゲリーというオレゴンの山の中の町出身のアメリカ人がいました。 彼の育ったオレゴンの高地は冬はマイナス20から30度くらいが当たり前の地方で、彼も寒さにはめっぽう強い人でした。 彼は窓ぎわのベッドで、真冬でも短パンと上半身は裸、薄いブランケットを一枚掛けて寝ていました。 それだけでなく彼は寝るときには暑い暑いと言って、窓のそばの暖房スイッチを切ってしまうのです。 そこまでなら耐えられるのですが、彼はそのうえ寝ぼけながら足で窓を少し開けると、新鮮な冷たい空気が漏れ入るなか気持ちよさそうに眠るのです。 私は窓から一番離れたところのベッドで、毛布と布団とベッドカバーを二重にかけて、冬用のパジャマを着込んで、布団の中で丸くなって寒さと戦っていたのでした。 私は彼に窓は開けないでくれと懇願したのですが、早朝寒さで眼を覚ますとたいてい窓がすこし開いています。 寒波が来ると外はマイナス20度を下回ります。 私はついに耐えきれず電気毛布を買いました。 ある朝また凍えながら眼を覚ますと外は銀世界でした。 窓の桟につもったパウダースノーが音もなく崩れると、心地よく眠るルームメートの胸毛の上にゆっくりと落ちていきました。 うっすらと胸に落ちる粉雪が朝日を浴びてきらきら輝いていました。 私は何という国に来たのだろう、何という人間が世の中には存在するのだろうと感嘆するほかありませんでした。 |
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